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誰もが安心して利用できる情報通信システムを。暗号技術の安全性を監視

CRYPTRECプロジェクト

暗号技術の安全性評価チーム、安全なデータ利活用チーム
NICTが参加している暗号技術の安全性評価、監視等を実施するCRYPTRECについて、これまでのプロジェクトの過程から今後の展望までインタビューを行いました。

プロジェクトの概要

「CRYPTREC」とは?これまでのプロジェクト体制について

CRYPTREC(Cryptography Research and Evaluation Committees)というのは、電子政府推奨暗号の安全性を評価・監視し、暗号技術を適切な実装法・運用法を調査・検討するプロジェクトです。現在はデジタル庁、総務省、経済産業省、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)、そして私たちNICTが共同で運営しています。もともとは公的な機関で使うための優れた安全性および実装性を持つと判断された暗号技術をリスト化するプロジェクト(2000年)でした。プロジェクトで作成されたリストはCRYPTREC暗号リストと呼ばれ、現在では公的な機関だけでなく多くの民間企業でも参照され、社会的に多くの注目を集めていると私たちは考えています。

プロジェクトとしては20年を超えましたが、その過程で体制は変化してきました。というのも、耐量子計算機暗号や高機能暗号、軽量暗号など暗号技術の広がりを背景に、それらの安全性・実装性の評価だけでなく、普及促進をセットで行う必要があるという見解に至ったからです。2013年には暗号技術活用委員会が設置され、暗号技術の利用状況の調査や普及促進にも力を入れています。

活動の紹介

暗号技術に対するリスクを監視し、推奨暗号の普及に努める

近年、量子コンピュータの開発が進められており、量子コンピュータを利用することで様々な分野の研究が進むことが期待されています。しかし、そうなったとき、現在使用されている暗号技術の一部が解読されると言われています。理論上、それらの暗号技術の解読が「可能である」ことが発表されたのは1990年代だったのですが、それだけの性能を十分に持つ量子コンピュータがいつ登場するのか、ということが問題となっていました。その「いつ」は専門家のあいだでも意見が分かれますが、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)からは「2030年にはそのような量子コンピュータが登場する可能性がある」という報告書も出ています。このため、量子コンピュータが実用化されても解読されない暗号方式(耐量子計算機暗号)について、NIST は2024年頃までには標準化でいくつかの耐量子計算機暗号を採用し、2030年にはそれらを使えるように準備を進めています。また、ここで採用された耐量子計算機暗号は国際標準として普及することが予想されています。日本国内でも準備を進めており、CRYPTRECの暗号技術調査ワーキンググループのもと、大学の先生や企業の専門家の方々と共同で耐量子計算機暗号のガイドラインを作成しています。

今後拡大が見込まれる新しい分野のニーズにも応えていく

また、耐量子計算機暗号のほかに重要なトピックとして、高機能暗号と軽量暗号があります。高機能暗号というのはアクセス制御や秘密計算などの付加機能をもつ暗号の総称です。「DeepProtect」でも使われている準同型暗号もその一つとなります。軽量暗号は、従来の暗号技術より、低消費電力であったり、コンパクトな実装が可能である技術です。IoT機器を代表するような小さなデバイスにも暗号技術が必要なケースが増える一方で、これらの小さなデバイスでは物理的制約などがあり、より低消費電力であったり、よりコンパクトな実装が可能な暗号技術が望まれており、近年需要が高まっています。これらの暗号のガイドラインも作成中で、高機能暗号は耐量子計算機暗号と同じく2022年度中に、軽量暗号は2023年度の完成を予定しています。

事務局の運営について

セキュリティ基盤研究室は暗号提案サブグループと安全性評価サブグループの2つが協業しているのが特徴です。ガイドラインに記載する内容や担当者の決定、専門家の方々に書いていただいた原稿のチェックなど、プロジェクトの事務局を運営していく上でのさまざまな局面で、どちらのチームの視点も必要となります。そのため、両方のチームのメンバーが事務局員としてプロジェクトに参加しています。

今後の展望

暗号技術の危殆化(安全性が危うくなること)はデジタル社会に大きな影響を与える問題です。しかし、既に世の中のシステムに広く実装されている暗号技術を一日で置き換えることはできません。CRYPTRECは将来起こりうるリスクを予測し、事前に備えるために長く地道に続いてきた、社会的意義の高いプロジェクトです。そして、それは今後も変わらず社会において重要な役割を担っていくものと考えています。

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