プロジェクトの概要
多くの組織がデータを活用しきれていない中、DeepProtectを用いた課題解決とは?
私たちのチームは、NICTが開発したプライバシー保護連合学習技術 DeepProtect を、社会課題の解決に役立てるためのプロジェクトに取り組んでいます。
現在多くの組織で貴重なデータが大量に蓄積される環境が整いつつあるものの、個人情報や機密性の高いデータが含まれているがゆえに、活用しきれていないという状況があります。例えば、振り込め詐欺やマネーローンダリングなどの金融犯罪は巧妙化が著しく、深刻な社会問題となっています。機械学習技術を用いた不正取引の自動検知システム導入へのニーズが高まってはいるものの、多くの金融機関では、それぞれが保有する金融取引データに対して、個別にルールベースのモニタリングツールを用いて対策を行っているのが現状です。この理由の一つとして、ひとつの金融機関では学習データ量が十分ではなく検知精度が上がりづらい、かといって、複数の金融機関でデータを統合しようにも、個人情報保護が課題となり、他の金融機関とのデータ連携が難しかったことが考えられます。
私たちのチームは、組織横断での安全なデータ連携を可能にする技術 DeepProtect を用いて、このような課題の解決を目指しています。2019年には、金融犯罪に係る不正取引の検知に取り組む実証実験が本格的に始動し、2020年には、5行の銀行(千葉銀行、三菱UFJ銀行、中国銀行、三井住友信託銀行、伊予銀行)と協力してDeepProtectによる不正取引の自動検知の精度向上に向けた実証実験を開始しました。
技術の紹介
2つの技術の特徴を融合して生まれたDeepProtect
DeepProtect は、複数の組織がそれぞれ持つデータを他の組織に開示することなく、データを統合して機械学習を適用したような結果を得ることを可能にします。基盤技術にあるのは、暗号化されたデータを復号することなしに、そのまま計算(加算)することができる加法準同型暗号の技術と、情報を隠しながら複数の分散されたデータをもとに学習することができるフェデレーテッドラーニング(連合学習:人工知能技術のなかの機械学習技術のひとつ)です。加法準同型暗号の特徴は発明された当時から知られてはいましたが、目立った社会実装はなされてきませんでした。その暗号技術と連合学習技術の特徴を融合することで生まれた DeepProtect は21世紀の新たな資源と言われるデータの活用範囲を劇的に広げる、社会に光を放つ技術だと自負しています。
プロジェクト運営について
産学連携でめざす社会実装。新たなチャレンジも
プライバシー保護連合学習技術の研究開発には約10名の研究員や研究技術員が精力的に取り組んでいます。その中でも深層学習(ディープラーニング)を利用するDeepProtectは既に実用化が可能なフェーズに入っており、私たち4名が中心となって社会実装プロジェクトを運営しています。銀行との実証実験では5行の銀行や共同研究パートナーの神戸大学に加え、ベンダーなど多数の組織が参画するものだったため、ふだんの研究開発業務とは異なるタスクの処理やハンドリングの難しさを実感しました。また、パーソナルデータを取扱い、社会実装を目指すプロジェクトであるため、研究開発とは異なる分野の知見、例えば、個人情報保護法や知的財産といった知見が必要になるというチャレンジングなものでしたが、産学官連携コーディネートや知的財産マネジメントを得意とするメンバーをプロジェクトに加えて、多様な人材がチーム一体となってハードルをひとつひとつクリアしてきたことは、基礎研究成果の社会実装という私たちに与えられた使命の一つを達成していくために非常に意義のあることと考えています。
今後の展望
新しいシステムやサービス創出への突破力に
今後の展開としては、金融分野における実証実験をより一層進めていくと同時に、DeepProtectは金融分野に限らず幅広い分野で活用可能であるため、他の分野でも新たな実証実験を開始したいと考えています。データの中身を見られる心配なしに、安心してデータを外部と連携できるようになり、さらにそれら膨大なデータの分析結果の恩恵を受けられるとなれば、DeepProtectは新しいシステムやサービスを生み出すブレークスルーになる可能性があります。社会実装という領域に踏み込むということは、研究開発とはまた異なる困難を伴い、また、社会・経済的なアウトカムを求められるということ。私たちにとって新たなチャレンジとなりますが、プロジェクトを通して日本の社会に大きなうねりを生み出したいと思っています。
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