この「安全なデータ利活用」の取り組みが正式に始まったのは2020年ですが、どのようにして安全にデータを利活用するかという目的に対する手段(技術)の研究や関連プロジェクトは10年近く前から行っていました。そのなかで代表的な技術が、検索可能暗号です。検索可能暗号の理論そのものは、2001年に海外から最初に論文として発表されていますが、機能の実装化という観点では比較的新しい技術となります。そのなかで私たちは、エンドツーエンド暗号化のような安全性の高いものに検索可能暗号の機能面を追加した暗号方式を提案し、その検索可能暗号システム ESKS(Encrypted System with Keyword Search)を用いて、ストレージやチャットツールといったシステム開発を進めています。 ここで課題になるのは、鍵をどうやって保存するかということです。暗号には必ず鍵があります。マルチデバイス化が進み、複数のデバイスから同じシステムにアクセスする機会が増えていますが、デバイスすべてに同じ鍵を保存しても大丈夫なのか?特に、コロナ禍で在宅勤務が増え、自宅のノートパソコンから職場のシステムへアクセスするとき、職場のパソコンと同じ鍵を保存しておくのか?耐タンパ装置(HSM)のような安全なデバイスに同じ鍵を保存するにはコストがかかります。私たちが今回提案した検索可能暗号システム ESKSを利用したシステムでは、ブラウザがあればユーザはどこからでもシステムにアクセスが可能でありながら、安全性の高い暗号化を実現します。一見、矛盾しているように思えるチャレンジングな課題を技術的に克服したことがもうひとつの特徴といえるでしょう。